以前の記事(新聞広告スペースのサイズや呼び方と、15段組と12段組での広告サイズについて)で、新聞広告の段数やサイズについて書きましたが、今回はその続き。
新聞は特殊なメディアということもあり、入稿データを作る際やデザインを行う際には一般の商業印刷とは違った形式、色々な制約と抑えておくべきポイントがあります。今回はそのへんのことを書こうかと思います。
新聞の印刷について
まず、新聞を実際に手にとってみるとわかりますが、紙は非常に薄く若干グレーがかっています。(薄いわりには意外と裏面の印刷が透けていないのは、グレーがかった紙のおかげなのかも…)
印刷機も特殊で、インクが乾きやすく非常に高速な輪転機を使います。こちら↓(めっちゃ早い!)
ただ、印刷のクオリティは一般のチラシなんかと比べると、やや落ちる傾向にあります。スクリーン線数も60〜100線(モノクロの場合)なので、写真の解像度もその倍で200dpiが標準。(スクリーン線数が高ければ高いほど、印刷の精度が上がります)
チラシなど通常のオフセット印刷の線数が175線で、解像度が350dpiなのを考えると、新聞印刷のクオリティが一般商業印刷に比べて低いことがわかるかと思います。(新聞社にもよりますが、新聞印刷のクオリティも年々上がってきてるので、最近では線数が高い印刷機を使ってる新聞社さんもあると思いますが…)
さらに紙も薄いので、透けやすい、裏写りしやすい(印刷機のせいかも)などなど、クオリティに関してはある意味仕方のない部分があります。
参考:新聞印刷のことがよくわかるpdf→朝日新聞の印刷ガイドブック
下版データも独特
新聞という媒体は、印刷のクオリティよりも部数や価格・スピードを重視するメディア。印刷方法や入稿方法も一般の商業印刷とは異なり独特です。
たとえば、入稿形式はeps、写真の解像度は200dpi(モノクロの場合)、ファイル名は英数字で日付とクライアント名で表記、墨ベタ原稿は基本NG、画像は原寸配置で埋め込み、インキの総使用量は250%まで、下版は掲載日から数えて中一日(モノクロの場合)など、様々。
入稿のガイドラインは各新聞社によって異なるので、複数の新聞社に入稿する代理店や制作会社となると、各社の仕様を覚えるだけでも結構大変。『下版のたびに各社の仕様書を確認する』なんてこともあったりします。
新聞の下版データがここまでマニュアル化されている理由は、印刷のスケジュールがタイトなので、入稿形式をオートマチックなシステムで規格化しておかないと、『次の日の朝刊に間に合わないでは済まされない』といった側面もあるのかもしれません。
どちらにしてもデータを入稿する際は、各社の入稿ガイドラインをしっかりと確認してください。
Y100の背景にK100の文字を打って失敗した例
僕も新聞業界に携わって10年以上たつので、失敗したことは数知れず…
たとえば、カラー原稿での『ノセ』と『ヌキ』
新聞印刷では基本的に、通常のオフセット印刷と同様、イラストレーターのK100%のオブジェクトの背面に、その他の色のオブジェクトがある場合、基本的にはそのオブジェクト(K100%)は『ノセ』という扱いになってしまいます。
当時、モノクロ原稿ばかり作っていてカラーの新聞原稿に慣れていなかった僕は、モノクロ原稿と同様に、いつも通り目立たせたい文字をK100%で作り、背景に黄色ベタ(Y100%)を引いて下版データを作成し、刷り上がりを見てビックリしたことがあります。
目立たせたいはずのK100%の文字が、背景の黄色ベタの影響で『白背景の上に置いたK100%の文字よりも薄く見えてしまう』という現象が起きてしまいました。
仮に通常のチラシ印刷(コート紙)なら、それほど気にならなかったのではないかと思うのですが、新聞の紙質のせいなのかインクのせいなのか、僕が目立たせたかった文字はそうでない文字よりも、あきらかに薄く見えました。
こんな感じ↓
本来新聞原稿では、こういった場合K99.9%などにして、ヌキにする必要があります。
今思えば、新聞の輪転機はK→C→M→Yという順番で印刷するようなので、K100%を印刷したあと速乾性インクという特性上、K100%が速攻で乾いた上からY100%を印刷するので、イエローの影響力が強く出てしまったのかなと思います。(僕の想像ですが…)
墨ベタを背景に敷いたデザインを入稿して、新聞社ともめる
他にも、モノクロ原稿で全体に墨100%のベタを敷いたデザインを作って、クライアントにも「これは目立ちますよ〜」とか何とか言ってOKをもらった原稿がありました。
ところが、いざ新聞社に入稿したら担当者から「K100%のベタは止めてくれ!K100%をK80%に落としてくれ!」と言われ、クライアントからOKをもらっていた僕は今更そんなことを言えるはずもなく、新聞社とずいぶんもめた記憶があります。
新聞って短時間で高速印刷をするので、ベタ部分が広くなるとそのぶん乾きが遅くなって、裏写りや文字がつぶれる原因になるんだと思います。
なので、新聞社によってはそういったベタ原稿にチェックが入る場合があるので、怪しいと思ったデザインの場合、クライアントに校正する前に新聞社に確認してもらう方が、トラブル回避という意味ではベストかと思います。
新聞で使うモノクロ写真について
基本的にモノクロの新聞原稿を多く作ってきたので、モノクロ写真限定にはなりますが、ワンポイントアドバイスです。
僕が新聞のモノクロ原稿で写真を使う場合、単純にRGB又はCMYKをグレースケールに変換するだけではなく、必ずコントラストを強くします。
理由は、新聞の紙は元から少しグレーがかっているので、そのままグレースケールに変換しただけでは、ぼんやりしたイメージの写真になってしまうからです。
僕の場合は、フォトショップのレベル補正で、コントラストを強めにかけてハッキリとした画像に仕上げます。こんな感じ↓
もちろん、デザインや好みの問題もあるので一概には言えませんが、新聞のモノクロ原稿で使う写真に関しては、これぐらいハッキリした写真に仕上げた方が、刷り上がりもキレイで見た目もよくなる気がしています。
文字の装飾でよく使うパターン
文字の装飾に関しても、カラー原稿であれば色でカテゴリ分けしてしまえば済むところを、モノクロ原稿の場合はそうもいきません。
なんせ墨1色のなかで濃淡や色の反転、くくりなどを駆使して、広告の内容をカテゴリ分けしていく必要があります。
だからといって、通常の文字をスミ100%にしていて「ここは、ちょっと意味合いが変わるところだから、スミ50%にしよう」というわけにもいきません。スミ50%の文字なんて読みづらいし、新聞の網点は荒いので文字が小さかったりした場合、上手く印刷されません。
たまに、どっかの制作会社さんからくるデータで、フルカラーのデザインをイラレでそのままグレースケールに変換しただけのデータが来たりしますが、あれは良くないです。
フルカラーでM100Y100の赤も、イラストレーターでそのままグレースケールに変換すると、K70%ぐらいのぼんやりしたグレーになってしまいます。面倒でも、きちんとK100%に指定しなおすなどの手間をかけて読みやすい広告を心がけましょう。
僕は基本的にモノクロ原稿で文字を打つ場合はスミ100%か0%のどちらかです。文字に中途半端なアミは極力つかいません。なので、意味合いの違いをデザインするときは、文字の濃度(%)よりも、『くくり』などの装飾で違いを出すようにしています。
扱いや意味合いを変えたい文字などが隣り合う場合にも、フルカラー原稿と違い色で違いを出すことができないので、装飾を変えることによって違いを表すようにしています。
僕がよく使うモノクロ原稿での文字の装飾などを載せておきましたので、よかったら参考にしてください。これらの組み合わせで無限大の装飾ができます。
まとめ
1色という制約があるからこそ難しく奥が深いモノクロの世界。
以前誰かが、「モノクロ原稿なんてデザインじゃないでしょ」と言っていたのですが、僕から言わせるとモノクロ原稿もまともに作れないようじゃ、グラフィックデザイナーとは言えないと思っています。
逆にモノクロ原稿が作れるようになれば、大抵のものは作れるんじゃないかと思うんですが…。
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